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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)120号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 原本の存在及び成立について争いのない甲第二号証の一、二によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりであることが認められる。

本願発明は、ポリ(4,7―ジオキサデカメチレンアジポアミド)(以下「N―30203―6」と称する。)及びナイロン―6(又は、ポリカプロラクタム)(以下「N―6」と称する。)の溶融配合に対する改良法である。この改良法は強化された性質をもつたブロツク共重合体のポリ(4,7―ジオキサデカメチレンアジポアミド)―ポリカプロラクタム(以下「N―30203―6//6」と称する。)を生ずる。(本願明細書第三頁第三行ないし第二行)N―30203―6//6及び他のこのような共重合体を作る一つの方法は、従来より溶融配合として知られ、右ブロツク共重合体は親水性繊維としての有用性をもつているが、N―30203―6//6から織物をつくる際、繊維の紡糸過程において、繊維に施した潤滑仕上剤を後に沸騰水中で洗い流す(精練)とき、該共重合体繊維が融合する傾向があり、このため、編み上げた布が固くなり、着る人に受け入れられないという問題があつた(本願明細書第三頁第一六行ないし第四頁第一二行)。本願発明の発明者は右知見に基づき、右の融合という欠点は、ブロツク共重合体を溶融配合により製造するに当たつて、溶融配合を、右のような共重合体が、蟻酸中で、ある分別沈澱特性をもつまで続けると、繊維とした際に融合を生じないブロツク共重合体の得られることで解消されることを発見し(本願明細書第四頁第一三行ないし第一七行)、特許請求の範囲(前記本願発明の要旨)記載のとおりの構成(昭和五八年九月五日付け手続補正書別紙)を採用し、右構成によつて、それからつくられる繊維は、引つ張り及び水分吸収のような他の望しい性質をなお保持しながら、別表「蟻酸溶解度の調節によるフイラメント融合の排除」(本願明細書第二〇頁)に示すように融合問題をもたないという作用効果を奏する(本願明細書第四頁第一七行ないし第五頁第四行)。

(二) 一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載の発明は、ポリ(4,7―ジオキサデカメチレンアジバミド)のようなポリ(ジオキサ―アミド)とナイロンー6のような溶融紡糸可能のポリアミドとを溶融配合することによつて、繊維としての用途をもつている新規ブロツクコポリマーを製造する方法に関するもので、ナイロン―6のようなポリアミドに匹敵する物理的特性を保持すると共に、木綿と同程度の吸湿性を有する繊維に転換しうる特性を備えた溶融紡糸可能なポリアミドとポリ(ジオキサ―アミド)とのブロツクコポリマーの製法であり、ナイロン―6のようなポリアミドに代るブロツクコポリマーを提供することを技術的課題とし、その解決のために、特許請求の範囲に「溶融紡糸可能なポリアミドとポリ(ジオキサ―アミド)とを溶融配合することより成る、下記の反復構造式と約五、〇〇〇―一〇〇、〇〇〇の分子量を有する新規ブロツクコポリマーの製法……

<省略>

(但し、R1、R2及びR3はH、C1―C10アルキル類及びC3―C10のイソアルキル類から成る群から選ばれ、R4はC1―C10アルキレン類及びC2―C10イソアルキレン類及びC3―C10イソアルキレン類から成る群から選ばれ且つY=2-100及びZ=2-150である。)」と規定し、実施例として、溶融配合を、温度二八二℃において一五分、一八〇分及び三六〇分、温度二九五℃において三〇分及び三六〇分、そして温度三〇五℃において三六〇分の温度及び配合時間で行うことが開示されていると認められる。

(三) 右(一)、(二)の認定事実によれば、本願発明は、溶融配合によりブロツク共重合体のN―30203―6//6を製造するに当り、溶融配合を<1>約二六〇℃から約二八二℃の温度で、約二六分ないし約七五分間行うにつき(以下「(1)の要件」という。)、<2>該ブロツク共重合体が溶解したブロツク共重合体を含有している蟻酸水溶液から回収されるブロツク共重合体の最大量が約九〇・六重量パーセントを越えることを、又は、溶解したブロツク共重合体を含有している蟻酸水溶液中に溶解されたブロツク共重合体の五〇パーセント回収において、蟻酸濃度が約五二・五パーセントより低いことを特徴とするまで溶融配合を続ける(以下「(2)の要件」という。)ことを要件とすることによつて、紡糸して繊維を作る場合に、フイラメント融合の少ない、又は、生じないブロツク共重合体を製造する方法であるのに対して、引用例記載の発明は、N―6のようなポリアミドと実質的に同等の総括的な繊維性能を保持すると共に、木綿の吸湿性と同程度の吸湿性を有する繊維に転換し得る共重合体を提供することを技術的課題とするものであつて、本願発明の、ブロツク共重合体から作られた潤滑仕上剤を有する繊維を仕上剤除去のため精練するときに生ずる融合問題についての認識はなく、かつ、引用例には、実質的に融合しないブロツク共重合体の製法、すなわち、前記(1)の要件下、(2)の要件をも同時に満す溶融配合を行うことについて何ら具体的な記載はないことが明らかである。

2 原告は、審決が、本願発明と引用例記載の発明とは、溶融配合条件(温度及び時間)で一致すると認定し、かつ、相違点について、(ア)引用例記載のブロツク共重合体から得られるフイラメントは、本願発明によつて得られるものと同様に、フイラメント同志が融合しない程度の品質のものと解するのが相当である。(イ)蟻酸中におけるブロツク共重合体の分別沈澱を通して重合体特性を確認し得ることは本件出願前公知であり、この特性を利用してブロツク共重合体の最大回収量や蟻酸濃度を、フイラメントが融合しない範囲のものに限定することは、当業者にとつて格別の創意を要するものとは認められない、と判断したのは、いずれも誤りであると主張する。

(一) 取消事由1―一致点の認定について

前掲甲第二号証の一及び同第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「溶融配合で二つの異なるポリアミドを混合し、両者の融点より上から両者の分解温度より下までの範囲に加熱する。混合物を前記温度内に保持する時間の長さは生ずる構造に著しい影響をもつ。」(第五頁第五行ないし第九行)との記載があり、一方、引用例の発明の詳細な説明の項にも、「一般にアミド基、即ち<省略>を含むコポリマーは、二種類のポリアミドを溶融することによつて形成することができる。即ち、二種の異なつたポリアミドを混合し、それらの融点よりも高温に加熱すると、それらはコポリマーを形成する。この方法は溶融混合法として知られている。しかし、これらの二種のポリマーがその融点より高温に保たれる時間の長さが、得られる構造に大きな影響を与える。」との同旨の記載があること(第二頁上段右一七行ないし下段左五行)、更に、引用例には「加熱が続くにつれて、該混合物はブロツクポリマーに転換する。しかし、混合及び加熱が続くと、「ブロツク」の長さは減少し「交互」シークエンスが現われる。」(第二頁下段左第五行ないし第一一行)の記載、並びに、具体的には、溶融配合を、温度二八二℃において、一五分、一八〇分及び三六〇分、温度二九五℃において、三〇分及び三六〇分、そして、温度三〇五℃において三六〇分で行う試験及び試験の結果を示す第一表及びその説明(第七頁上段右第三行ないし第八頁上段右第二行)が記載されていることが認められ、これらの記載からすれば、温度及び混合時間の長さに応じて種々の共重合体の得られることは明らかであるから、二八二℃ないし三〇五℃、一五分ないし三六〇分を溶融配合の加熱範囲と捉えることは可能であり、どのような構造の共重合体が得られるかは別として、本願発明の温度二八二℃で約二六分ないし約七五分の溶融配合条件は、引用例記載の範囲に含まれるものと認められ、審決が、配合条件において一致していると認定したことに誤りはない。

(二) 取消事由2―相違点の判断について

(ア) 審決は、「引用例に記載の共重合体は、記載されたその性能からみて、本願発明のものと同様フイラメント融合しない程度の品質のものと解するのが相当である。」と判断している。

しかしながら、本願発明は引用例記載の発明の特性を保持しつつ、ブロツク共重合体を繊維とする場合に、フイラメント融合を生じないブロツク共重合体を得るものであること、そして、このブロツク共重合体が前記(1)、(2)の要件下の溶融配合においてのみ得られるものであること、一方、引用例には右(1)の要件である温度と混合時間との組み合わせについて(1)の要件と一致する具体的な記載はなく、かつ、この混合時間の長さに応じて種々の構造の共重合体が得られるものであることは前記(一)の項で認定したとおりである。このことからすれば、引用例には、本願発明の要旨とするブロツク共重合体が認識し得る程度に開示されているとはいえない。さらに、引用例記載の、木綿の吸湿性と同程度の吸湿性を有する繊維に転換し得るものであること、また、該繊維はナイロン―6のようなナイロン類と実質的に同等の総括的な繊維性能を有することの特性が、フイラメント融合を生じないという性能と関連があるとする根拠も見いだすことはできない。

したがつて、引用例記載の特性のみをもつて、本願発明と引用例記載のブロツク共重合体は同品質のものと解するのが相当であるとする審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。

(イ) 審決は、「ブロツク共重合体の最大回収量や蟻酸濃度をフイラメント融合しない範囲に限定することは当業者にとつて格別の創意を要するものとは認められない」、と判断している。

しかしながら、蟻酸中におけるブロツク共重合体の分別沈澱を通して重合体特性を確認し得ることが公知であることから、本願発明の溶融配合条件で得られたブロツク共重合体を、分別沈澱を通して、他の重合体から区別してその性状を確認することは適宜なし得ることであるとしても、ブロツク共重合体を利用する、すなわち、繊維とする段階で初めて認識されるフイラメント融合の問題を生じないという特性の確認まで可能であるとはいい得ないのであり、まして、引用例記載の発明においてはフイラメント融合を生じないブロツク共重合体についての認識はないのであるから、ブロツク共重合体の最大回収量や蟻酸濃度を該ブロツク共重合体が融合しない範囲のものに限定することに格別の創意を要しないとする審決の判断は妥当でない。

被告は、引用例の記載から、溶融温度、時間を種々変化させることにより、得られるブロツク共重合体の性質を変え得ることが知られ、特に二八二℃の温度で一五分ないし三六〇分の実験結果が示されているから、この範囲において所望の性質を有するブロツク共重合体が得られる温度範囲を選択することは格別困難なことではない、と主張する。

しかしながら、右に記載の温度、時間内で種々のブロツク共重合体を製造し、その性質について確認し、所望の性質を有するブロツク共重合体の得られる温度範囲を選定することが格別困難なことではないといえるとしても、引用例には、引用例記載の特性が、本願発明の特性であるフイラメント融合を生じないという性質を有するものであるとの明示的な記載もこれを示唆する記載も存しないことは、前記認定事実から明らかであり、また、該特性を有するブロツク共重合体は、前記(1)及び(2)の溶融要件を同時に満して初めて得られるものであつて、単に温度範囲を選択して得られるものではないから、この点についての被告の主張は理由がない。

また、被告は、ナイロン繊維類について、繊維を編んだ後に、精練工程において仕上剤を洗い流すことは、普通に行なわれていることであるから、そのような工程における不都合を避ける、といつたことは当業者が当然配慮することであつて、引用例記載の発明において、本願発明のような技術的課題がなかつたとはいえない旨主張する。

しかしながら、本願発明における融合を生じないブロツク共重合体を得るという技術的課題は、前記認定のとおり、繊維の処理の際に重合体繊維が融合する問題があり、このため編み上げた布が固くなり、着る人に受け入れられないという欠点を解消することにあるのであつて、繊維に編んだ後の仕上剤を洗い流す工程自体における不都合に関するものではなく、しかも、その欠点を溶融配合の条件を特定することによつて解決することは本願発明によつて初めて達成できたことであるから、洗い流し工程における不都合を避けることが当業者の当然配慮することであるからといつて、引用例記載の発明に本願発明と同一の技術的課題があつたとはいえない。

3 そうすると、引用例には、本願発明の技術的課題及びその課題を達成するための溶融配合要件、すなわち、前記(1)及び(2)の要件を同時に満たす溶融配合について、これを示唆する記載がなく、そして、本願発明は、右要件によつて、繊維とした場合にフイラメント融合の生じないブロツク共重合体が得られるという効果を奏するのであるから、本願発明が引用例記載の発明に基づいて容易に発明できたものであるとした審決の判断は誤りであつて、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ポリ(4,7―ジオキサデカメチレンアジポアミド)とポリカプロラクタムを溶融配合してブロツク共重合体N―30203/6//6を製造する方法において、 溶融配合を約二六〇℃から約二八二℃の温度で約二六分ないし約七五分間行うにつき上記共重合体が、溶解したブロツク共重合体を含有している蟻酸水溶液から回収されるブロツク共重合体の最大量が約九〇・六重量パーセントを越えることを、又は溶解したブロツク共重合体を含有している蟻酸水溶液中に溶解されたブロツク共重合体の五〇パーセント回収において、蟻酸濃度が約五二・五パーセントより低いことを特徴とするまで上記溶融配合を続け、これによつてブロツク共重合体からつくられ潤滑仕上剤を有する繊維を仕上剤除去のため繊維を精練するときに実質的に融合しないようにした上記ブロツク共重合体の製法。

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